更新:74 days ago

ありがとう

マルコが死んで一ヶ月経った。

昨年2月に「もうダメか」と思う時があったが、病院に連れて行って治療を受けると、元気になって復活してくれたが、冬頃から体は徐々に痩せていった。

この冬をなんとか越して欲しいと願いがかなって、春を迎えた。
人間で言うと、もう腰を落としたヨボヨボとした歩き方になり、どうやって命をつなげているのだろうと不思議になるほど、マルコの体はタオルのように軽くなっていった。
耳は遠くなり、仕事から戻って部屋の灯りをつけ、後ろを向いたマルコの頭をなでても、壁に映る私の影をじっと見つめるまま。
大きな声で「マルコ!!」と叫ぶと、ゆっくりと首を回して、やっと私に気づいてくれる。
ベッドの高さに合わせて、私の枕と並ぶようにマルコの猫ハウスを置いてあったので、ここに上がれるだろうかと思っていたが、こちらの心配をよそに、ピョンっとベッドに飛び乗り、布団にもぐり込んでくる。
私やマコちゃんの腕枕に、折れそうな体を横たえて眠るマルコの息は浅く、夜中にマコちゃんが突然「マルコ!おい!マルコ!」と死んでしまったかと驚いて声を上げることが何度もあるほどだった。

マルコがやってきたのは、平成元年くらいだったと思う。
右手が2倍以上に腫れあがって怪我をしていた。その時既に仔猫でもなく成猫だったので、本当の年齢はわからない。
どこかで飼われていた猫のようで、毛並みもきれいで汚れもなかった。
当時、引越しの際に捨てられる猫が多かったので、マルコも捨てられ辿り着いたのかも知れない。


もう大往生になるんだから。必ずその日がやってくるのだから覚悟をしなくてはと、心に言い聞かせて過ごしていた。
仕事から家に戻ってすぐにマルコのところへ行き、眠っているのかどうなのかと不安になりながら体を撫でると目を覚ます。今日も一日生き延びてくれたとホッとする毎日を過ごしていた。
それが、死ぬ10日ほど前から急に食欲が旺盛になり、動きも軽やかに活発になって、前のマルコに戻った!とマコちゃんと大喜びをしていた。
まるで飢えた猫のようにガツガツとすぐに食事を平らげてしまった。
ネットで調べてみると猫にも痴呆症があるらしいということがわかったが、痴呆症でもなんでも、とにかく食欲が出て食べてくれればいいと、喜んでいたのも束の間のことだった。
5月24日から食事を食べなくなってしまった。
食べなくなってしまえば動物は終わりとなってしまう。何とか食べてくれるものはないかと好物だったものを口元にもっていくが食べようとしない。夜には、横たわって目を開けじっとしているだけのマルコ。

5月25日。水を含ませた脱脂綿で、マルコに水を少し飲ませた。
この日は広島市立大の日本画研究科の学生さん達が紙漉きにやってくるので、朝から準備に忙しかった。夕方までかかり、無事終了。
家に戻ると、マルコは横たわったままで、起き上がろうとするが、なかなかできずにいる。
もうお別れが近いのか…。マルコの顔に私の顔をくっつけて「マルちゃん、ありがとうね。そばにいてくれてありがとうね。」と何度も繰り返してマルコを撫でた。
「お風呂に入ってくるからね。待っててね」とマルコに言ったのが最後となった。
マコちゃんが寝るときには、まだマルコは息をしていたとのことだったが、私が寝るときには体が冷たくなっていた。
灯が小さく消えていくような最後で、特に苦しむ姿もなく大往生だった。

悲しいことも、辛いことも、マルコの存在で乗り越えられた私は、いつも「マルちゃんが死んだら私は気がおかしくなるかもしれないから、マルちゃん長生きしてね。そばにいてね。」と話しかけていた。
私に覚悟の期間を与えてくれて、元気な姿をもう一度見せてくれ、25日の仕事にも差し支えないように、命をギリギリまで頑張ってつないでくれていたように思う。

夜があけて、マルコの体を綺麗な箱に入れお別れをした。
マコちゃんは、雨の中、畑の草をきれいに刈り、果樹や三椏を植えたところに穴を掘ってくれ、26日夕方、マルコを埋葬した。

大往生とわかっていても、悲しみは深く、心にぽっかりと穴があいたようで、何もする気がおきず、誰とも会いたくない、誰とも話したくないという日々が続いた。マルコのいた空間が消えてしまい、一人になると、突然涙がとまらなくなり、何もできなくなった。
深い喪失感は、いくら大往生なんだと自分に言い聞かせても埋まらなかった。
マルコ用に買ってあったキャットフードを見て「あぁ、もうマルコにこれをやることができないんだなぁ」とマコちゃんが悲しそうに言えば、また涙がとまらず。
涙がこぼれ落ちる日が続いたが、最近ようやく、笑ってマルコの想い出話ができるようになった。

マルコが与えてくれた幸せは大きい。ある時は支えとなってくれ、ある時は癒しとなってくれた。だから悲しみは大きいが、いつも「マルちゃん、また生まれ変わって戻ってきてね」と祈っている。

マルコ、本当にありがとう。

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伊賀さとみプロフィール

平成14年4月にふるさと島根定住財団の田舎暮らしツアーに参加。3ヶ月後の7月に東京より桜江町にIターン。晴耕雨読の田舎暮らし…なんて、トンデモナイ!田舎暮らしは忙しい!楽しい!Happy!毎日「生きている!」を実感。飽くことのない極上の田舎の毎日をご紹介いたします♪

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