僕が紙漉を始めたのは、10年前に石州「勝地半紙」の原田宏に師事してからになる。
原田宏は母の兄で、僕にとっては伯父にあたる人だ。
子供の頃、母の里帰りに一緒についていったが、
宏が紙を漉いている姿は記憶にない。
紙漉きが冬の仕事ということがその理由かもしれない。
夏に煙草を栽培乾燥している姿ばかりが思い出される。
紙漉きは、3代に亘る原田家の家業で、宏自身も七十年近く
従事していることになる。
名人といわれる宏の仕事を初めて見学したときはとても興奮した。
絶妙の体の動きで簀の上の水が躍ってみえた。
リズミカルに動く水の動きと、ねりを混ぜた重たい水の打ち合う音が妙に心地よかった。
現在「風の国」がある、長谷地区や周辺だけでも最盛期には
三百を越す家で盛んに和紙が漉かれたが、
昭和40年代を最後に原田家ただ一軒のみとなり、唯一勝地半紙を守っていくことになる。
宏には後継者がなく、最初に勝地半紙を教わりたいと言ったときは、
手放しで喜んでもらえた。