通常、製紙所では紙を漉くことが本義で原材料の楮や三椏の採取、加工は契約農家や業
者に委ねるのが普通だ。
最初に原田 宏(ここからは師匠と呼ぶ)に教えを乞うたときは期待外れのものだった。
僕は、前の晩に師匠のビデオを繰り返し視て、紙を漉くシュミレーションをしっかりし
てきていた。当てにして待っていると鎌を2本持ってきて、その1本を渡された。
「わしに付いて来んさい」
と山道を登りだした。着いたのは楮畑(畑というよりは畦や法面が中心)だ。
20センチほ どの高さの木の株から3mはあろうかという楮の枝がにょきにょきと何十本も出ている。
「ええか、こうやって中心が山になるように伐るんで」
そう言うと鎌でサクサク伐りだした。あっという間に一株伐り終えて次の株に移り、
小 枝を剪定して40〜50本の枝をまとめ一丸に束ねてしまった。
真似して伐ろうとするが、芯に食い込んでなかなか思うようにならない。堪りかねた師
匠が「枝を左脇に挟んで伐る瞬間、根元に押すようにして伐ってみんさい」と一言、
促されたように試してみると
「ヤッター!」
と思わず声が出る。刀で袈裟斬りにしたような鮮やかな切り口が目に眩しい。
ただ木を 伐るだけのことだが、なにか凄い事を会得した気分になった。
今、楮を伐りに出かけると手伝ってくれる人に同じことを言っている自分がいる。
太い枝がスパッと切れたときのその人の笑顔がなんとも言えないほどいいのだ。
この冬は、超ベテランのYおじさんと楮・三椏を伐った。その笑顔を見ることもなく
スピディーに粛々と仕事は片付いた。おかげで4窯分の原料が揃った。独り立ちした
からには、しっかり腰を据えて良い和紙を漉きたい。それにはもっともっと楮を増や
していかなくちゃならん。